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タイトル


第66回 2007/5/01
マヒワ

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マヒワ♂
(64) マヒワ 「スズメ目アトリ科カワラヒワ属」
    英名:Siskin
    学名:Carduelis spinus
    漢字名:真鶸
    大きさ:12 cm

どこにでもいそうで、いざ探してみると意外と個体数が少ないことに気づく鳥、それがこのマヒワです。ずいぶん以前ですが、初めて見掛けたときには、ずいぶん黄色いカワラヒワだななどと思ったものです。

日本に生息していたり、飛来してくるヒワの仲間には、カワラヒワ、ベニヒワそしてこのマヒワがいますが、古来ヒワと呼ぶときにはこのマヒワを指すことが多かったようです。平安時代には「ひわ」、鎌倉時代以降「ひは」、そして江戸時代に入ってから、「かわらひは」や「べにひは」と区別する上で、「まひは」と呼ばれるようになったようです(「鳥の名前」 東京書籍)。真性のヒワとでもいえますでしょうか。

スズメより一回り小さいのですが、オスメスともに黄色味が鮮やかで、集団で移動することともあいまって存在感が大きく、フィールドではさほど小さい鳥という印象を受けません。ユーラシア大陸の東部と西部に繁殖期は生息し、日本には越冬に訪れる、冬鳥です。ただ、一部は北海道や本州高山地帯でも繁殖することから、漂鳥であるともいえます。

日本へ越冬に飛来するマヒワの群れは、まず山間部に入り、次第に平野部に移動するようです。それは、マヒワが針広葉樹の実を好むため、最初は平野部より早めに実る木の実を求め山に入り、春先にかけて早く芽の吹く平野部に移動するためだと思われています。このページの写真は、いずれも埼玉県下の平野部で若い実を出し始めたクヌギに集まったマヒワたちです。また、樹木の実だけでなく地面に降り立って様々な種類の草の実や、花穂も採食する姿が多く撮影され、発表されてもいます。

オスとメスでは明確に異なった色合いと模様をしています。上の写真はオスです。嘴の上から後頭部にかけてと、嘴の下の喉の部分が黒っぽくなっています。そのせいか、眉斑の黄色が目立ちます。ご覧のとおり、背中はちょっと黒味を帯びた黄色、頬から胸にかけては明るい黄色です。下腹部は白味を持ち黒褐色の縦斑が見えます。これに対して、下の写真でもはっきりしていますが、メスには後頭部と喉の部分に、オスほどはっきりした黒味はありません。また、腹部全体の黄色味はオスに比べて薄く、明確な縦斑が多く入っています。お腹の部分と頭の部分をみれば、雌雄の違いはすぐにわかります。オスメス別々に独立したなわばりを持つヒタキの仲間と異なり、越冬期間中でも群れでいますので、雌雄同時に観察する機会も多い鳥です。一度見掛ければ雌雄の区別は簡単だといえます。

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マヒワ♀

残念ながら囀りは聞いたことがありません。繁殖地へ戻る直前であればチャンスがあるとも思えるのですが。地鳴きでは、比較的に小さな音量で、「チュイーン、チュイン」もしくは「ジュイーン、ジュイーン」と聞こえます。それでも、集団で、採餌の際にお互いに鳴き交わすときにはかなりの音量になりますが。

大和本草(江戸時代宝永年間)では、このカラーバランスを、「ひは(和品)漢名未知 からひはは、たてひはより小也。頬と腹と尾上黄なり。背と翅は黒黄まじれり。觜(嘴)小なり。まひはとも云」とされ、ここから、マヒワの異名として、からひわ(唐鶸)があることが知れます。また鶸という漢字が、和製漢字であることも推測されます。

唐鶸を歌った、アララギの歌人、長塚節(たかし)の和歌です。

 
唐鶸の雨をさびしみ鳴く庭に十もとに足らぬ黍垂れにけり 

農家の庭に、マヒワの細い声が秋雨の寂しさを増幅させているかのようです。

またアララギの先駆者、正岡子規は、鶸をこう歌っています。(長塚節は、正岡子規の正当な後継者ともいわれています)

 
かな綱の大鳥籠に木を栽ゑて ほつ枝下枝に鶸飛びわたる 

ここに、既に明治時代には、マヒワを飼い鳥として飼養していたことが判ります。

枕草子で、鳥は「都鳥。ひわ。ひたき。」と記されていることからも、平安の昔からら、趣(おもむき)ある鳥として親しまれてきたようです。鎌倉時代に至って、西行はこう歌っています。

 
こゑせずと色こくなるとおもはまし やなぎの芽はむひはの村鳥   (山家集

鶸、ひわは、秋の季語です。

 

砂丘よりかぶさって来ぬ鶸のむれ  鈴木花蓑

大たわみ大たわみして鶸わたる  上村占魚

両句ともマヒワがかなりの群れで行動することを歌っているようです。

現在では、かなり個体数を減らしているマヒワです。平野部では、春先、静かな公園の、芽を吹いてちょっと時間を経た木々の枝先を注意深く観察してみてください。運がよければ、全身に黄色の目立つ十羽以上の群れをなしたマヒワを見つけることができるかもしれません。

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注:写真は、画面上をクリックすると拡大できます。