(56)キビタキ 「スズメ目ヒタキ科」
英名:Narcissus Flycatcher
学名:Ficedula narcissina
漢字表記:黄鶲、黄火焼
大きさ:13.5 cm
夏の山歩きに、最も色彩豊かな表現をみせてくれ、鮮烈なよく響く鳴き声を聞かせてくれる鳥、キビタキをご紹介しましょう。
冬場は、フィリピン、インドシナ半島、ボルネオ諸島で越冬し、日本へは春先に飛来、夏場にかけて繁殖する夏の鳥です。日本にいる夏の期間は、もっぱら落葉広葉樹林の中を好みます。 この上の写真でもお分かりのように、飛び出しやすい枝にとまり、飛んでくる虫を空中で捕らえると、またもとの枝に戻って飲み込みます。残念ながら、こうした採餌行動も、数度と続かず、大体二回多くても三回程度でまた別のとまり場所にせわしなく移動していきます。
大きさは、ほぼスズメほど。眼の上の眉班と喉から胸部そして腹部にかけて鮮やかな黄色。特に胸の部分は、赤みが強く、周囲の黄色の中で実に艶やかに見えます。こうした変化のある黄色が、その周辺の黒い部分に中で、この鳥の鮮やかな色合いを際立たせます。これほど鮮やかなコントラストに満ちた森林の中の夏の野鳥は、キビタキに尽きるといってもよいでしょう。またこれに翼の部分の一部が真っ白であることも、スタイリストここに極まれりという感があります。ただこれほどの綺麗さも雄に限っての話で、メスは多くの野鳥がそうであるように非常に地味で、腹部は灰白色、羽の一部に薄く赤みかった部分がある以外には、ウグイスのようにオリーブ味を帯びた薄い褐色です。下左は背中から見たメス。右は正面から見たところです。
英語名の最初のNarcissusは、スイセンの意味 (学名の narcissina も意味は同じです)。 Narcissus=スイセン、これは、古いギリシャ神話に語られた、美少年 Narcissusが水辺に写る自分の姿に酔いしれ、そのまま水辺の花になったという伝承からつけられたとされています(蛇足ながら自己陶酔型の人をナルシストというのもここから来ています)。また、Flycatcherは、飛んでいる虫 (Fly)を空中で補足する(catch)、採餌行動からつけられたものでしょう。つまり、スイセンのように綺麗な容姿を持った、空中で餌である虫を上手に捕捉する鳥ということのようです。
季語はもちろん夏。
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目移しの、ふとこそ見まし、黄鶲の 薄田泣菫
黄鶲や沢辺に多き薊の座 水原秋櫻子
黄鶲や幡めぐらして三夜堂 伊藤なづな |
日本では、葉の生い茂る夏場の林にしかいないため、なかなか見ることは困難ですが、この鳥の冴え渡った強い囀りは、きっと幾度か耳にされた方も多いのではないでしょうか。次のサイトで、囀りを聞くことができます。さまざまに囀るうちの典型的なものです。この時期、これまた綺麗で繊細感のある声でよく鳴くオオルリを「京女」とし、それに対して迫力を感じるキビタキの囀りを「東男」と対照させる一種の聴きなしもあるようです。
また、江戸時代初期の「本朝食鑑」ではこの「声は清らかで、滑らかである」と賞しています(この中でキビタキは、「黄火焼」と書かれています)。
越冬地からやってくる春先、または越冬地へと帰る秋口、意外と都市部の林のある公園などにも立ち寄ることが知られています。私の住まいからそれほど離れていないさいたま市秋ヶ瀬公園では、5月中旬から下旬にかけて、一週間から長いと十日間ほど、また、9月下旬から10月上旬にかけては、数日間から1週間ほどよく観察されています。上の写真はいずれもキビタキ、オスですが、まだ完全成鳥ではなく羽に褐色味が残り、下尾筒部分が白くなっています。
上のサイトで声を覚えられて夏の山を散策され耳を澄ますか、お近くにある自然公園で春と秋、オスの綺麗な姿を探されるか、してみたらいかがでしょうか。まだ関東では山にいますし、越冬地へ戻る季節にはちょっとだけ間があります。
注:写真は、画像上をクリックしますと拡大します。 |