前回に引き続きミヤコドリのお話です。
日本では希少種にカウントされる鳥なのですが、オーストラリア、ニュージーランドでは必ずしもめったに見られない鳥ではなく、かなり普通に見かけることができます。
一度も、ミヤコドリを見たことのなかった頃(1980年代だったでしょうか)、ニュージーランド、オークランドに出張する機会がありました。仕事のなかった日曜日、レンタカーを借り、2時間ほどかけて太平洋側の海岸に出かけました(オークランドは、タスマニア海に面しています)。海岸線に沿った土でできた自然防波堤の手前に車を止め、干潟までカメラ、望遠レンズと三脚を持って砂地を歩きます。かなり遠方に潮の引いた喫水線がみえ、どうもかなりの鳥が餌を漁っているようです。心躍る思いです。鳥たちまで50メートルほどの距離で観察を開始です。そこで真っ先に目に入ってきたのが100羽を超えるミヤコドリの大群だったのです。
時として、騒がしく仲間内で餌の奪い合いもあります。1mほど飛び上がる時、黒い羽の中心部にはっきりと白い模様が浮かんでくる様が優雅にも見えます。初めて見るヒメウも、ウとしては小さいながらも、黒い羽と赤いくちばしのコントラストが綺麗です。時間を忘れ双眼鏡を覗き、カメラのシャッターを切り続けているうち、ファインダーの中のはるかかなたの水平線がにわかに真っ黒になってきました。いつの間にか、風も強くなっています。頭上の空もいつの間にか怪しげです。これはスコールだと気付きましたが、あっという間に砂を巻き上げる突風に替わり、頭上の空に暗雲が漂い始めました。カメラと望遠レンズを収納箱に入れる間もなく、砂嵐に雨が混じって降ってきました。幸い風は海から吹いてきます。上着の中に望遠レンズがついたままのカメラを隠し、三脚とカメラバッグを抱えて防波堤に向け、それこそ逃げ始めましたが、とても間に合いません。喫水線から防波堤まで恐らく2km以上あったのではないでしょうか。
行く時には未知の鳥を期待して胸躍らせていますから、気にもかからなかったのですが、強い風と横殴りの雨に追い立てられながらの帰り道の距離は、なんと遠かったことでしょう。ずぶぬれになり、車に逃げ込み、ヒーターをフルにして服を乾かします。ここでカメラをメインテナンスしなければなりません。使用途中のフィルムをいったん巻き上げることもできるのですが、水がどの程度内部に入っているか分かりませんし、望遠レンズもはずさなければなりません。最後のフィルムは犠牲にすることにします。何とか、カメラのメインテナンスはできました。ここではたと気付きます。それまで時間かかけてとった数本のフィルムはどこだ。ありません。きっと逃げ出す前に置き忘れたか、途中で落としたのでしょう。嵐の後、探しにいこうとしても、もはや満ち潮に代わっているではありませんか。いまや広大な砂浜は、すべて荒れ狂う波の下です。初めてのミヤコドリの記録写真は、遠く南太平洋のどこかに流れてしまいました。こうして、ミヤコドリは、いかなる意味でも生涯忘れることのできない鳥になったのです。