関東平野には、秋の深まりとともに現れ、春の訪れとともに山奥へと去っていく「冬鳥」です。人目のつきやすい枯れた落葉樹の小枝に出てきてくれますが、警戒心が強く、すぐに葦原などのブッシュ奥深くに逃げ込んでしまい、なかなかゆっくり観察することがし辛い、スズメ大の、背中から見るとスズメやホオジロに似た野鳥です。
ホオジロとの最も際立った違いのひとつは地鳴きのリズムです。ホオジロは「チチ、チチ」、「チチチ」と、2声、時として3声で鳴きますが、アオジは「チ、チ、チ」と1声のみです。これが逆になり、ホオジロが1声で鳴いたり、アオジが「チチ、チチ」と2声で鳴くことはありません。葦原の中から聞こえてくる地鳴きで、冬の時期このアオジと同じように、「チ、チ、チ」と1声で鳴く鳥は、他に“カシラダカ”がいます。カシラダカの地鳴きの方が、幾分控えめで、周波数も低いように思えますが、雌雄の別によって異なることもあり、この点は、いずれ確認してみようと思っております。カシラダカとの違いは、「聞き分け」より「見分け」の方が簡単です。お腹が白いカシラダカ、黄色いアオジです。
この鳥の特徴は何より、背中の地味な茶褐色にコントラストをなす、お腹の綺麗な黄色です。これを緑色とみなし、「アオ」をその名に冠したのでしょう。アオバトなども、ブルーではなく、グリーンです。通常日本の野鳥でアオ色が目立つ場合、「ルリ」を付けるようです(たとえば、オオルリ、コルリ、ルリビタキ)。英語名「Black-faced Bunting」は、この鳥の特にオスに顕著な目元から嘴にかけてのクロを捉えて、直訳するとクロカオホオジロと付けたようですが、メスのその部分はあまり黒くなく(メスの特徴は、薄い眉線があることです)、双方に共通な腹部の黄色を捉えた和名の方が適切な呼び名であるような気がします。下がメスです。
俳句の上では、この鳥は、「夏」の季語とされているようです。山間部では、夏に最もさえずるからでしょうか。
病む松の 間ぬけ出来てあおじ鳴く 野間宏 新緑の 藪に逃げ込む アオジかな 虚心 |
このアオジの仲間で、めったに見ることできない“シベリアアオジ”が数年前、さいたま市秋ヶ瀬に来ているのに偶然遭遇できたのが、私の小さな自慢です。