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第30回 2003/4/01

道端のそこここに、黄色い5弁の小さな花を咲かせたカタバミが見かけられるようになりました。先ほど、ここさいたま市にも上空をツバメが鳴きながら飛び交っているのに気づきました。東京では、桜の開花宣言がだされたようです。時として冷たい風が吹きますが、もう春です。学生さん方は、終業、卒業、入学もしくは就職という節目の時期を迎えるころです。どうかこの興奮に満ちた新しい門出の思いを、いつまでも持ち続けてください。

この4月1日より、CEC本社のあるさいたま市は、政令指定都市としてスタートすることになり、当社の住所も、さいたま市「西区」となります。CECも新たな心意気で、新製品の開発に取り組んでいきたいと思っております。

そのひとつの表れとして、CECでは3月下旬より、新事業として、CDレコーダー用の記録機器ユニットの製造を中国広東省東莞市にてスタートさせました。これまで、当社でOEM供給しておりましたCDレコーダーは、その心臓部、記録機器ユニット(録音側のメカニズムと回路の一式)を、かつての親会社でありました三洋電機さんから購入しておりました。同社の事情から、この記録機器ユニットの生産を打ち切ることが昨年決定された後、何とかCECでその全てを引き受けさせてもらえないかと協議を重ね、関係者の非常な尽力のおかげで、ここまでたどり着けた次第です。

2、3年前には、CDレコーダー開発の話題がオーディオ雑誌などでも大いに取り上げられたのですが、CDを単にコピーするという機能だけの側面から見た場合、どうしてもパソコンの超高速録音機能と、常に廉価傾向をたどる価格の趨勢から、今日では、オーディオ専用のCDレコーダーはあまり省みられることが少なくなった感があります。なぜ私どもが、脚光を浴びつつあるDVDレコーダーとは反対に、あたかも見捨てられつつあるかのようなCDレコーダーに取り組むのか。パソコン用のCD-R機と比べてメリットはあるのかについてご説明したいと思います。

かつてCDプレーヤーが開発された時、CDトランスポートの違いによって音質が異なることはないとの「神話」が、それも高度な技術者によって語られていたものです。今日では、DAC部分はもちろん、CDトランスポートの違いによって、驚くほど再生音楽の表現能力に違いがあることに異議を唱える人はいなくなりました。他方、ディスクそれ自体はどうでしょうか。すくなくとも、同一条件で録音され、記録されたディスクの1枚、1枚に音質上の差異があるとはいえませんが、同一ソースを別のソフトメーカーが出すときには、かなりの相違が出てくることは事実です。従って、現在、あるメーカーから出されているあるお気に入りのCDを残そうとした場合、そのコピーをできるだけ「音質を損なわない」優しい条件で記録することに越したことはありません。そのソフトが将来も同一条件で同一のソフトメーカーから提供されるとは限らないからです。

パソコンでの記録は、通常20倍速以上、技術的には40倍速の速さで記録ができます。60分のディスクの場合ですと、3分もしくはそれ未満の短時間で記録作業が完了します。しかし、高速記録作業は、きわめて高温下で行われることにより、ディスク自体の物理的ひずみは大きく、平らになるまでの待機時間が必要なほどです。高品位な音質を維持する上で好ましくないことは論を待たないところです。そして、パソコンでの記録は、高速対応のドライバーであればあるほど、たとえば等速や、倍速、4倍速での記録は不可能なのです。

それに対して、オーディオ用のレコーダーは、通常4倍速が主流となっており、私どもも含めて更なる高速化の志向性はありません。これは、ディスクに高温による物理的なひずみを与えない配慮からきているものです。また、音楽信号だけの録音、再生に絞り込むことにより、パソコン本体とのCPU上のさまざまな情報回路、機構を全て除去することにより、回路全体の大幅な単純化が可能となり、これが再生上無駄な信号の混入を防止できているのです。CDレコーダーで、お気に入りのCDの予備を確保しておいたり、カーCD専用のディスクを作ったり、編集機能を駆使して、お友達への自分だけのCDをプレゼントしてみてはいかがでしょうか。

このCDレコーダー記録ユニット生産の立ち上げ確認もあり、3月中旬から、台湾、中国と出張いたしましたが、その間、東南アジアの人々の耳目を集めた話題は、「重症急性呼吸症候群(SARS)」拡大の危険性と、アメリカ・イギリス軍によるイラク攻撃の開始でした。人々を不安の坩堝に投げ込もうとする「悪意」が、決して好転しているとはいいがたい景気の沈滞ムードの最中に報じられています。私たちはこうした事態に目をつぶることはできませんが、自分だけの音楽世界の中で、精神的な落ち着きをもってこの「悪夢」を冷静に眺め返すことはできるはずです。