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第22回 2002/8/01

これまでになく台風の本土上陸回数の多かった7月でした。また、あるときはここ埼玉県でも、秩父地方で摂氏37度を、熊谷市で36度を超えるという猛暑に襲われている今年の夏です。夏の全国高校野球甲子園大会に向け、各都道府県の地方予選も最終段階に入ってきました。皆様どのようにこの熱さの中お過ごしでしょうか。心から暑中お見舞い申し上げます。

先日、当社の海外生産工場について取材を受ける機会がありました。また、NHKの7月30日の「プロジェクトX」で、SONYの北米、欧州進出当初の逸話の数々を紹介してもおりました。ここでC/O、(Certificate of Origin:原産地証明、若しくは原産地表示) について考えてみたいと思います。

所謂、団塊の世代といわれております世代階層に属する私の子供時代、1964年(昭和39年)東京オリンピック開催までは、まだ個々の家庭にとってはテレビは高嶺の花でした。白黒の画面に踊る、アメリカの近代的な生活を鼓舞するコメディ、西部劇、大相撲、始まったばかりの国産の時代物、現代物の活劇を求め、多くの当時の子供達は近所の、TVを購入している、わずかばかり裕福な床屋や食堂を徘徊したものです。

子供達が愛した番組の一つに「ポパイ」がありました。「正義の味方」ポパイが、「弱者」である恋人のオリーブを守るため、「悪の権化」ブルータスを、「魔法の力」をもつホウレンソウの元気をもらい打ちのめすという、いつも決まったなんともシンプルなストーリ立てに魅了されたものです。1959年5月から5年以上放映され、人気を博した番組でしたが、そのシリーズの、未だ白黒画面の時代、きわめて印象的なシーンがありました。

主人公ポパイが、ラジオを聞いています。突然雑音、そして音が出なくなります。怒ったポパイが、そのラジオを確か壁に投げつけます。ラジオは壊れ、バネが飛び出します。そのバネの先に「Made in Japan」と書かれたラベルがあざやかです。恐らくこの番組のオリジナルが作られたのは、1950年代後半のことでしょう。その当時の、「Made in Japan」は、「安くて、一見魅力的に見えるが、壊れやすい」代名詞として、北米市民には嘲笑されていたのでしょう。

少なくともその当時、多くの子供達は、このパロディが意味するところが判らずじまいだったでしょうし、当時のマスメディアが「日本差別」といったクレームを呈したとの記憶もありません。恐らく、当時の日本の有識者自身もある程度の実態を知っており、苦い思いの中で見て見ぬ振りをしたのかもしれません。しかしその後日本の弱電業界は、品質の向上と技術の飛躍的な革新に傾注し、10年を経ずして「Made in Japan」を、単にその製品が作られた地域性を示すC/Oという以上に、高品質を表示する、普遍的なブランドにまで引き上げていきました。これは、弱電業界自体の尽力というよりも、その当時の日本の産業を支えた全ての鉱工業会の躍進の土台の上になしえたことであることはいうまでもありません。

この成果の大きな要因として、日本の消費者が、日本の製品に対して怯むことなく物申してきた、また、メーカーもそれに答えてきた相互の緊張関係があったことは、忘れるべきではありません。品質に関する信頼性は、市場における製品をめぐる消費者と生産者の相互の対立と協調の中で作られてきたといえるのではないでしょうか。翻って見ると、今日の東南アジアマーケットはどうでしょうか。

残念ながら、日本に続くといわれた、韓国、台湾、香港、そして中国では、製品に表示された、自国の原産地表示を、かならずしも「品質保証」のマークとは信じきれていない光景を多く目の当たりにします。

冒頭に記しましたように、今回雑誌社から受けたインタビューでは、工業製品の生産に当たって、単純には「純日本生産貫徹型」と「海外生産全面依存型」を両対極において、どのような選択が中小企業にあるのか、というテーマのように感じられました。当社の生産場所に関する考え方はまた別の機会に譲るとしましょう。ここでは、製品の品質は、最終的に製造したメーカーが100%の責任をもつことは当然の義務であることを前提として、消費者との連携なしにはよい品質と信頼関係は確立できないことを申し上げたいのです。

数年前、CECとして、CDトランスポートに対応するD/Aコンバーターを、技術者 Candeiasを中心として開発し、生産を、プレス加工、基板組み立てを得意とする、台湾、台北地方のオーディオ工場に依頼しました。その時、当社の台湾生産に最も強く反対したのが、台湾の販売代理店でした。「Made in Taiwan」の高価格製品は、決して台湾市場では受け入れられないという理由です。現在も生産、販売を継続しているDX51、DX71(それぞれMKIII、MKIIとモデルチェンジしていますが)がそれです。台湾市場には、販売を強制しないということで生産を開始しました。

当社の、最高級CDトランスポートTL-0が、世界中で最も販売されたのが台湾市場です。この製品を愛する人々がいつかは、台湾製であれ、CECが責任をもつD/Aコンバーターを理解しないわけがないとの思いがありました。2年間を待つことなく、このマーケットでも消費者は理解を示し始めてくれました。勿論、ユーザー諸氏からのさまざまな質問や、不安に対するやり取りが多くあったことはいうまでもありません。

現在、中国は、安く、かつ膨大な量の労働力の供給可能性を秘めた生産の世界基地として注目されています。その他方、夥しい人口の故に、将来性を秘めた巨大消費市場としても期待されています。社会資本の充実に向けたテンポと実行力の側面を見るとき、中国が物を安く効率的に作るのに最適な場所であることは、最早疑う余地のないところでしょう。しかし、「Made in China」を中国の消費者が、信頼性の証しと納得し、購入意欲を掻き立てられる時代がくるのには、越えるべきハードルはまだ一つや二つではないように思われます。

私どもは弱小メーカーではありますが、中国で生産する、CECのいくつかのモデルが、「Made in China」であっても、問題なく中国のユーザーに受け入れられるように、少しづつではあれ、たゆまず尽力していくつもりです。