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第138回 2012/4/4

「菜の花咲く卯月」

 漁業に携わる方たちが恐れる、春を真近にした冬の終わりの時期に吹く南からの突風、「春一番」がないまま春分を経て4月、旧暦で呼ぶ卯月に入りました。4月に入り、遅れた「春一番」がとてつもない規模で全国的に吹き荒れたのが昨日から(4月3日)から本日(4日)ですが、皆様方のお住まいの地域ではいかがだったでしょうか。大型台風並みの風と雨の猛威に、気象庁は「暴風や高波のほか、積雪の多い地域では大雨による雪崩にも厳重に注意するよう」呼びかけています。

 寒さの厳しかった昨年から今年にかけての冬でした。梅の開花が遅れ、桜の開花もこのままでは20数年ぶりの遅咲き記録を更新するといわれるほどでした。でも気付いてみると、いつの間にか空き地のそこここや河川の堤防や河川敷には黄色い絨毯が狭く、広く敷かれています。菜の花が咲いています。(下の写真は、渡良瀬遊水地)

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 与謝蕪村が、菜の花や 月は東に日は西に とうたった(安永3年、1774年)菜の花は、まずまちがいなく「アブラナ」(フウチョウソウ目アブラナ科アブラナ属)でしょう。江戸時代、急速に伸びた油の需要に対して(一般庶民が使うようになった)、全国各地に菜種油を採るアブラナの栽培が普及していったといわれています。東から昇る月は満月。一面の黄色い地平線の上に浮かぶ薄青い満月。蕪村が抒情的に描いた色彩あふれる世界です。

 今そこここの自然で見ることのできる春先の黄色い花は、ほとんど「セイヨウカラシナ」。また採油目的で栽培される菜の花は、「セイヨウアブラナ」。明治政府は、それまでの武家社会を近代的な市民社会に「維新」したといわれていますが、西洋文明を大胆かつ無防備に取り入れただけでなく、非東洋的動植物の移入にも何らの制限も加えませんでした。コスモス(メキシコ)、ウシガエル(北米)、アメリカザリガニ(北米)などと並んでこのセイヨウカラシナ(ヨーロッパ)も「維新」の生み出した産物です。

 現在自然環境の中で、「菜の花」と呼ばれているものは、ほとんどがセイヨウカラシナ(西アジア原産という説もあります)です。また、農家で栽培されている一見菜の花に見える植物は実に多様で、セイヨウアブラナ、コマツナ、ハクサイ、キャベツなどなどです。小学校唱歌の著名な作詞家、高野辰之(1876〜1947)の代表作のひとつ、「朧(おぼろ)月夜」(作曲・岡野貞一、大正3年(1914年)に初出)は、次にように春の景色をうたっています。

 菜の花畠に 入日薄れ 見わたす山の端 霞ふかし。 

 春風そよ吹く 空を見れば 夕月かかりて 匂い淡し。

 平成の今でも小学校の音楽の教科書に掲載されている名曲です。長野県出身の作詞家がうたったのは、明治末から大正にかけての北信濃の春の風景で、ここでの菜の花は、信州の産物、ノザワナ(野沢菜)だといわれています。蕪村の描いた菜の花も、大正時代の唱歌で歌われた菜の花も、ともに自然に咲いたものではなく、ヒトが栽培したものであることは興味深いものがあります。すでに江戸の時代から、人為的な風物をそれをとり囲む大自然の中で自然の一部に昇華させてきた、日本的な自然観をここに見る思いがします。

 どうも合点のいかない政局の混迷を、マスメディアを通して見聞きするにつけ暗然たる思いにとらわれます。しかし、自然界はヒトの世の趨勢とかかわりなく春を告げています。菜の花の作る黄色い世界に、薄紫のショカツサイ(諸葛菜)が縁どりを添える春の幻想的な色合いに、明日を信じて新しい年度を期待しましょう。

 




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