(42)キョウジョシギ「チドリ目シギ科」
英名:Ruddy Turnstone
学名:Arenaria interpres
漢字表記:京女鴫、京女鷸
大きさ:22cm
シギ、チドリの仲間は、大体よく姿かたちが似ていますので、種類を判断するのが余り簡単ではありません。しかし、この「キョウジョシギ」は一目でそれと判別ができます。写真は、この春、千葉県谷津干潟で撮影したものですが、ごらんのとおりまず背中の明るい茶色と黒のまだら模様が特徴的です。赤い脚と黒い嘴は体長に比べ短めです。なんとなく胴長短足という形容が思い浮かべられますが、派手なまだら模様がそれをカバーしているようにも見受けられます。
この背中の色彩が、大変雅やかな和服にも見えることから、京の女性に譬えて京女シギと和名が付けられました。確かに、じっと動かないままでいますとおしとやかに見えますが、残念ながら、エサを採る動作は、実にがさつです。せわしなく貝殻や小さい石、海草を嘴で跳ね除け、その下のゴカイや昆虫類を捕食します。私自身は目撃したことはありませんが、どうも動物の死骸やゴミなどもエサの対象にするようです。ある説によりますと、エサの中で、動物の死骸を食する比率は、このキョウジョシギがシギ科の中でも最も多いとされています。
また、この和服になぞらえられるきれいな背中の模様も、オスの夏羽にだけいえることで、オスの冬羽やメスの羽はかなりくすんでしまいます。どうもこの和名は、この鳥の特徴を表現する上では、あまり正確とはいえないようです。ただ、この鳥は、様々な鳴き声を発しますが、「キョウ」とか、「キョッキョッ」と鳴くことからこの和名が付いたのかもしれないと推測する方もいます。鳴き声は、この他に、「ピリリリ」とか「ピョウピョピョ…」とも聞こえる鳴き方もします。
英語名の Turnstone (石をころがす)は、このシギがエサを探す動作、つまり石を跳ね除け、その下に生息する貝やゴカイなどを採餌する様子から付けられたようです。体に比べて意外と大きな石までもひっくり返すことから、かなりの力持ちと思われがちです。しかし、この鳥の嘴の短さと上向きになった先端の形状が、この石ころがしを容易にしているように思われます。
日本には、5月を中心とした春と、9月を中心とした秋に旅鳥として訪れます。冬場は、日本より南の南半球に広く越冬し、夏場は北極圏で営巣、繁殖するといわれています。図鑑の表記では、全地球規模の北極圏を繁殖地とし、北極圏が生息不能時期には、全南半球の沿岸地区を生息圏として選択しているとされています。しかし、日本に飛来するツバメが、フィリピン島などの東南アジアの島々から飛来してくることが判明しているのと異なり、日本を中継地として選択しているキョウジョシギがどのようなルートを採って、具体的にどこから来て、どこまで行っているのかは未だに不明のようです。
中継地日本では、その地理的な性格上、全国で観察されています。私自身は、宮崎県の青島で最初に見たのですが、その後、長良川の河口、天竜川の河口で見かけたことがあります。そして関東地方では谷津干潟や三番瀬が最適な観察地となっています。全て汽水域、もしくは海水域ですが、別の観察では、完全な淡水域である川の下流部や、水田でも飛来していることが報告されています。キョウジョシギは単独ではなく、数羽から数十羽の群れで行動することが多いようです。
5月もしくは9月に貝やゴカイが棲んでいそうな海岸に行かれましたら、目をこらして、よく探してみてください。数羽の背中の赤っぽいシギが、ごそごそと動き回っているかもしれません。それがキョウジョシギです。
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