ちょっとユーモラスにも聞こえる名前をつけられたこの鳥。れっきとした猛禽類、それもハヤブサの仲間です。電線や、電柱にとまっているところを遠くから見るとキジバトとも見間違う大きさ、色合いをしています(実際には、チョウゲンボウの方が大きい)。キジバトを細身にして、尾を長くした形状ともいえましょうか。
オスは、頭頂部から首部分までが青灰色。背中は、黒い斑点の目立つ茶褐色。メスは、頭頂部の青灰色部が背中と同じ茶褐色。目元から下にはっきりと目立つ黒い、ヒゲともいえる斑が顔の大きな特徴。下の写真でご確認ください。ハヤブサ科の中で両翼の長さに対して尾の長さの比率が最も高い(単純にいって尾が長い)のがこの鳥。崖などの窪みに集団営巣している写真や報道も目にしますが、近年都市部のビル街でも見かけます。
長野県下高井戸郡十三崖で、1949年に初めて発見された集団繁殖地は有名で、その後1953年には、国の天然記念物に指定されました。ただその後の環境の変化で、昨年(2002年)の調査では、2組の育雛活動が確認されたにとどまったようです。こうした繁殖地を除きますと、冬に渡ってくると理解されています。
関東地方では、季節を問わず平野部の上空を舞う姿がよく観察されます。この鳥の一番の特徴は、空中で停止飛行(ホバリング)できることと、飛翔の仕方が、「ヒラリ・ヒラリ」という形容がぴったりするほど優雅であること。ハヤブサと異なり、飛翔中の小型の野鳥を襲うことはないようで、スズメ、カワラヒワなどと一緒にいるところを見かけたこともあるほどです。もっぱら、平野部のカヤネズミ、ミミズ等の小動物や、昆虫を捕食するようです。一度カヤネズミを捕らえてから、食べ終わるまでを見かけたことがあります。空中から、ひらりと舞い降り、農耕地にいるカヤネズミを捕らえるや電柱に舞い登り、電柱の上で食べ始めましたが、すべてに要した時間が5分程度でした。なんともスマートな採餌の過程がとても印象的でした。
韓国ソウル郊外でも、またユーラシアの西のはずれスペインの山間部でも見かけましたので、ユーラシア大陸全土に広く住んでいるようです。チョウゲンボウは、冬の季語。チョウゲンボウやノスリのように、人の耕す田畑に生息するタカを、馬糞鷹と呼ぶ地域もかつてはあったようです。これを小林一茶は、馬尿鷹と呼び、こう詠んでいます。
観音の鳩にとくなれ馬尿鷹 小林一茶(八番日記) |
ハト(この場合は、キジバトでしょう)と対比される鷹となれば、ここではチョウゲンボウが詠まれていると理解すべきでしょう。ちょっとした郊外で、ちょっと注意して上空を見上げれば、比較的簡単に目にできるタカです。